教習所マジック

教習所では車の中で教官と2人きりで指導を受ける。運転にも慣れない状態で走行する不安や緊張感からくるドキドキを恋と錯覚してしまう…これが教習所マジックだ。

 

吊り橋効果とも言うのかな。

 

18歳になりすぐに自動車教習所に通い始めた当時高校3年生の私は、教官ってそんなことあり得ないでしょ(笑)と苦笑いしていたのだ。

 

そんな私が…

 

見事に…

 

教習所マジックにかかったのでした。(笑)

 

私の通った教習所は、自宅から車で45分くらいかかる田舎の教習所だ。

 

高校から近く駅チカの教習所もあったのだが、教習料金が安いことを理由に少し遠い田舎の教習所に通うことにしたのであった。

 

結果的に、私は教習所が楽しくて楽しくて仕方なかった。

 

16歳の時に二輪の免許を取得したので、自動車の教習所では学科は免除だった。

 

ひたすら車に乗るだけで、学科を受けなくて良かったのでそれだけで気楽だった。

 

田舎の教習所なので車はポンコツ。走行するとギーギー音がなった。

 

教習コースも田舎ならでは。殆どが山道で、それも1台しか走行できなくて、ほとんど整備されてないような道も通った。

 

1台しか通れないのに対向車が来るから怖くて仕方ない。しかもすぐ横は崖だ。

 

大通り(山の中)に出たと思えば周りはトラックばかりで怖い怖い。

 

そんな不安感と緊張感からなのか…私はある教官を好きになってしまったのである。

 

教習所を卒業し5年以上が経ったので、正直もうその教官の名前は覚えていないし、顔もうっすら記憶にあるくらいではっきりとは覚えていない。

 

その教官は当時25歳くらいで、高齢の教官が多い中唯一若い教官だった。

 

私は殆ど毎日のように教習所に通っていたのだが、不思議とその教官に当たることが多かった。

 

フランクに話してくれる教官で、年齢もそこまで離れていないので話しやすくノリも合った。

 

今思えば、その教官とどんなことを話したか、殆ど覚えていないのだが、楽しくて仕方なかったあの頃の気持ちは今でも覚えている。

 

唯一覚えているのが、卒業検定に合格し、教習所を卒業した日のことだ。

 

その日は別の教官が検定を担当してくれていたので私の好きな教官と接する機会がなかったのだが、検定に合格し待合室で待っていたときにその教官が話しかけてくれた。

 

「受かったの?おめでとう」と声をかけてくれた。

 

たった一言だけど、嬉しかった。

 

私は多分教習の中で1番多く指導を受けたのがその教官だったので、感謝の気持ちを伝えた。

 

その日は教習所のバスで来ていたので、帰りもバスだった。

 

多分本当に好きなら、告白したりとか、連絡先を聞いてみるとか、別れが悲しいとか、そういう気持ちになったのかもしれない。

 

でも私はそういう気持ちにはならなかった

 

もう会うことはないだろうな、と思いながらも別れを惜しむことなくバスに乗り込んだ。

 

今日で先生とお別れだ、楽しかったな〜、と帰りのバスで思いながら、楽しかった思い出に浸りながら、卒業したのである。

 

教習所が楽しくて仕方なかったのはその教官の存在だけではない。

 

どの教官もフレンドリーで、受付のおじちゃんも顔と名前を覚えてくれていつも話しかけてくれる。

 

たまに乗る教習所へのバスの運転手のおじいちゃんも私の顔と名前を覚えてくれて、バスに乗っている教習生が私が1人になるとそのおじいちゃんの家族の話とか色々な話を沢山してくれた。

 

バスに乗るといつも「お昼ご飯に食べな〜」とお弁当を買ってきてくれたり、畑で育てている野菜を持ってきてくれたりして、私も卒業するときにはネックウォーマーをプレゼントした。

 

好きだった教官には何もしなかったのに(笑)

 

その好きだった教官のことは、卒業後に思い出すことは殆どなかった。

 

うん、これが教習所マジックなのである(笑)

 

でも、好きな教官へのドキドキ感だけでなく、教習所のアットホームで温かい空間で過ごせたことが何よりも嬉しく楽しかった。

 

その温かい思い出は今でもずっと心に残っている。

 

教習所マジックも悪くないぜ。